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将棋好きがよってたかってプロの指し手を語ってみる

vol. 2

そこに棋譜があれば楽しめてしまう将棋ファンたち。
彼らがどのように観戦を楽しんでいるのかご覧あれ。

 第2号はこの局面。2007年10月の竜王戦の第2局である。先手
は渡辺明竜王、後手は佐藤康光二冠。いま40手目に後手が△1四
歩と突いたところ。ここで封じ手となった(*1)。この局面と対局者を
将棋ファンはどう見るのか。

*1 対局が二日間に渡るときなどは、二日目の最初の手を一日目の終わりに
決めておき、書き記したものを第三者に預けておく。

*   *   *

ikkn「まだ戦いは始まっていませんね。駒組みは私はよく分からな
いので普段ならこのあたりはぼーっと見ているだけなんですが、
せっかくなので真面目に見てみます。
 先手玉は片銀冠ですね。4九の金が遊んでいるようにも見えます
が、角打ちを防いでいるんですね、きっと。後手玉は穴熊ですね。6二の金が横に動けばめちゃくちゃ固くなります
ね。で、角交換しているということで状況把握完了。
 先手の手番なので、先手の手を考えてみます。振り飛車と居飛車なのでお互いに右辺の駒を捌いたら(*2)どう
なるのかなと思いましたが、仮に飛車と桂馬と二筋の歩が手持ちになった局面を想像してみると、玉形の差で振
り飛車が相当優勢になりそうですね。というわけで捌かない方向で考えます。
 角を打つ手を考えてみたくなりますが、ぱっと見て後手陣に角の打ち場が見えないです。さすがプロ。6二の金
は▲3一角の両取りを防いでいたんですね。
 玉形的には▲5八金から▲6七金としたいですが、▲5八金のときに△3九角▲2九飛△6六角成で馬を作られる
ので、これはない。
 というわけで先手から動いていく手が考えづらいので、相手のミス待ちということで、じっと▲1六歩を予想。
 後手は固いので角打ちさえ気をつければどう動いてもよさそうな気がします。具体的な手は見えませんが、6
筋に飛車を振りなおしてそこから攻めちゃ駄目でしょうか。どうやれば飛車をそこまで持っていけるのか分かりま
せんが」

*2 捌く:交換して持ち駒にしたり、相手陣に成り込んだりして、駒の働きをよくすること。

Zeirams「うわぁ。先手必敗ですね。だって後手穴熊だから!
 いいですか? 将棋っていうのは穴熊に組んだら勝ちなんですよ。穴熊に組む作戦のことをガンダムファンは
「V 作戦」って言ってるぐらいですから。穴熊は1年戦争時のガンダムなんです。シャアだって「見せてもらおうか?
連邦軍のモビルスーツの性能とやらを!」…ってカッコつけて言ったくせに結局負けたじゃないですか! ララァが
死んだのも穴熊の暴力のせいですよ。
 ここは「端は心の余裕」とか言って▲1六歩もありますけど、後手
の方が技かけやすそうだから危ない気がする。つーか、心に余裕の
ない時に限ってこの言葉を思い出して、端突いて失敗するんですよ
ね。ホントに迷惑な名言です。迷言ですよ! 誰が言ったんだよ!(←
逆ギレ)
 自分の実戦だったら仕方がないので「はぁ…」って色っぽくため
息ついて、スカートの裾を摘まんでチラッとすると見せかけて、相手
が「おっ♡」と見た隙に「チラっ」はせずに「▲2九飛」とします。相手
が目の前にいないネット将棋でもそうします。狙いは4九金をどけて
▲9八香上がって▲9九飛、▲8六銀以下、端に向かってジェット・スト
リーム・アタック! ぜいらむの可愛い仕草に気を取られて受けそこ
ねるに違いありません。たとえネット将棋でも気を取られるに違いな
いです。気合いでなんとかなります。これならガンダム相手でも勝てるかも! …いや、本家のジェット・ストリー
ム・アタックはガンダムに負けたんですけどね。所詮、ドムではガンダムに勝てないんですよ。
 2007年と言えば、ぜいらむはまだ中学生じゃないですか(◎◎)。その頃は将棋でもチェスでもなくてコックリ
さんとかして暮らしてましたよ。通りすがりの低級霊が寄ってきて危険なのですぐやめましたけど。ぜいらむがコッ
クリさんで青春時代を過ごしていた頃、小言妻氏は既に竜王妃だったんですねぇ(*3)」

*3 小言妻:渡辺竜王の奥さんのニックネーム。渡辺竜王が竜王のタイトルを保持しつづけているため、すっかり「竜王妃」のイメー
ジが定着した。

suzukure06「2007年10月ということで、まだ将棋にハマる前ですね。ただ渡辺-佐藤戦というと、将棋にハマっ
たばかりの頃に棋譜並べをしていて、とても広く見えた竜王の玉が、角成り一発で急激に狭くなって「一手でこん
なに景色が変わるんだ」と驚き感動した記憶があります。それがこの対局がどうかはわかんないんですけど。
 局面を見ると、まず振り穴に対して竜王が穴熊じゃないのが気になります。イメージ的には居飛穴大魔王なの
で(笑)。角交換しているので、穴熊にした方が損ということでしょうか。
 それにしても双方動きにくそうな形ですね~。下手に動くとすぐ角を打ち込まれそうです。後手としては千日手
歓迎というところですか。逆に先手はなんとか打開したい所です。
 私が先手なら、とりあえず▲1六歩としてお茶を濁す所ですが、この場面で封じ手なんですよね。竜王は封じ手
も戦略的に考えている節があるので、▲1六歩とするぐらいなら封じずに指してしまう気がします。
 攻めるなら8,9筋を縦に狙いたいです。▲4八金~▲2九飛~▲9八香~▲9九飛の地下鉄飛車でどうでしょう。
できるならその前に桂馬を8五へ飛べる形を作りたいです。▲8六銀から 7 筋の歩を交換して、端攻めを敢行す
る直前に▲8四歩△同歩▲8五歩とする感じですかね。まぁ、私がこういう凝った構想を立てた時はほぼ100%大
き目の読みぬけがあるわけですが…」

sanglantterre「(゜∀゜)o 彡゜みっくん!みっくん!(*4)…竜王の竜王戦での強さってなんなんでしょうね。あと竜王って
竜王じゃなくなったら何て呼べばいいんでしょうね。
 局面見ます。
 …プロの中盤戦なんか分かるかぁ!(ノ`Д´)ノ-----┻┻ -3-3
 普通に自分が指してたら端歩は取り敢えずおつきあいです(*5)。「おはよう」と言われたら「おはよう」と返す。ご
挨拶は大事。
 ただ陣形見てみたら後手の方が相当堅いんですよね。ほぼ理想通りの後手の穴熊に対し、先手の銀冠は金
銀2枚。4九の置いてけぼりの金は角打ちの隙をなくすためだとは思いますが働きが悪い。そう思うと端歩つきあ
うんじゃなくて自分から動いて相手の隙を作っていかないと勝てないかなぁ。
 候補手…本当は飛車とか動かして攻めたいんですが、2七に角打たれるのが気になりますし、角も打ち込む
場所ないし、仕方なく▲5五歩。△同歩なら▲同銀から一歩手持ちにしつつ6六の地点に移動して少しでも囲いを
強くしたい。取ってくれなかったら取り込んで、銀が出たら3一に角
打って飛車取りと馬作りの狙い。引いたら桂馬跳んでいきますか。
銀桂交換狙いで。2筋が薄くなりますが。
 でも絶対に指し手は違うんだろうなぁ」

*4 佐藤二冠のこと。
*5 端の歩を突かれたら端の歩を突き返す。つまり、▲1六歩ということ。

ShimShim87「今回は竜王戦ですか。先手居飛車銀冠に後手振り
穴ですね。渡辺竜王といえば居飛穴、というイメージがあったので、
竜王が相穴熊を選択しなかったのはやや意外な感じがします。
 この局面、振り穴は僕もよく指すので非常に興味深い局面です。穴熊戦の場合、5筋にと金を作ることが勝敗
に直結する印象があります。振り飛車の理想は、中央でさばきあった結果一方的にと金ができる展開ですね。だ
から、後手の構想としてはまず5筋の歩を切って5七か5六あたりに歩を垂らしたいですよね(*6)。ただ、仕掛ける
タイミングが難しい。
 △1四歩は直接的には▲1五角を防いだ手ですね。角を持ち合っているのでこれ以上の駒組みが難しく、あと数
手で飽和状態に達してしまいそうです。
 このくらい中盤だと形勢はほとんど互角だと思います。4九の金の働きが気になるので気分的には後手持ち
ですけどね。私の次の1手予想は▲1六歩です。
 さて、今回も中継ブログを見に行ってみました。いい写真ばかりで興味津々です。オススメ写真は「夕方の控室
3」と題された1枚。「二枚目の男」の異名を持つ杉本七段と室田女流1級の師弟コンビが往年の刑事ドラマのワ
ンシーンのような雰囲気で写っています。
 以下、写真について妄想(ネタはパクリではなくオマージュです)」

パターン A(仲間由紀恵風)「ヤツは必ずこの街に戻ってくる」「そんなまさか、どうして?」「ヤツの考えは全部ま
るっとお見通しだ!」

パターン B(純情派)「ヤツは必ずこの街に戻ってくる」「もし、戻ってこなかったら・・・?」「君が教えてくれたこと
だ。俺は信じる」

パターン QB「ヤツは必ずこの街に戻ってくる」「私なんかでも、本当に何かできるのでしょうか」「もちろんさ、だ
からボクと契約して、四間飛車党になってよ!」

*6 歩を切る:歩がある筋には歩が打てないので、あらかじめ相手に取っておいてもらう。
歩を垂らす:この場合、次にと金を作るために歩を打つこと。

rakuha「えーと、全然見覚えがないですね……うーん、記憶力が悪い。
 で、後手固っ! という局面ですね。先手も金銀三枚で囲いたいけれど、角を持たれているので右の駒が動か
しにくい。飛車を引いても1筋の端と△3五歩なども絡めて手を作られそう。康光流ならやってくるでしょう。
 とはいえよく見てみると、後手も動かす駒が難しい。積極的な手を指すとどうしても角打ちの隙が出てしまいま
す。自分ならば△7二金上として様子をみたいけど、そこは康光先生、「いつでも端から攻めちゃいますよ」ってこと
なんですね。
 先手竜王の立場からすると、端を受けると次に指す手難しいし、後手に先攻の権利あるし、だるい展開になる
なー……というところでしょうか。ただ先手にはとっておきの▲6六角がありますね。後手の桂馬と飛車をにらみ、
金銀も動かせるようになり、9筋の端攻めにも利いちゃうかも。あとは▲1六角もあるかも? ただ、竜王は穴熊っ
子なのでここでは悲観してそうです。「後手は何回か間違えられるよー」てなぐあいでしょう。
 自分なら▲6六角と打ち先手を持ちたいです。右辺は捨てて▲6八飛から▲6九飛、▲5五歩なんかも絡めて端
攻め一本! はい、まあプロの将棋はそんなにうまくはいきませんね……」
*   *   *

 翌朝、先手の渡辺竜王は▲5八金と指した。本紙の将棋ファンが
予想していなかった一手であるが、現地のプロの検討陣には予想
範囲内だったようである。その後、お互いに馬を作ったのち激しい
玉頭戦となり、先手が端攻めから穴熊を崩していって勝勢となる。
しかし129手目にうっかりがあり、最後は144手にて後手の佐藤二
冠の逆転勝ちとなった。(棋譜)

☆人物紹介

 ikkn:普段は指さない。多分、道場に行ったら中級。
 Zeirams:チェスの得意な人。将棋の棋力は不明。
 suzukure06:飛車落ちでプロ棋士と渡り合う。初段とのこと。
 sanglantterre:プロ棋士との手合は二枚落ち。平手では中級あたりらしい。
 ShimShim87:将棋倶楽部24で低級とのこと。道場では中級から上級あたりか。
 rakuha:青春時代を将棋部で過ごす。どう見ても有段者。

☆編集後記

 この企画ではウェブ上のパスワードなしで見られる棋譜のみからテーマ図を選ぶつもりなのですが、そうする
と羽生善治三冠の棋譜がすごく多くなってしまうんですね。盲点でした。

☆おくづけ

 編集者 井原健紘
 発行日 2011年6月6日

 ※棋士の段位は当時のものです。

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