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新原子力政策大綱-策定会議の議論から(その1)

国・電力・
電力・原子力産業界のも
原子力産業界のも く ろ み
◇中間貯蔵施設建設の推進
◇生き 残り 戦略と し て、新興国への原発輸出
◇老朽炉に ムチ打つ危険な稼働率大幅ア ッ プ
2011 年2月 14 日 美浜の会

原子力委員会(近藤駿介委員長)は昨年 11 月 30 日、原子力に関する国の基本方針であ
る原子力政策大綱の見直し作業の開始を決定。26 名※1からなる新大綱策定会議を設置し
た。12 月 21 日には第1回会合が開かれ、約1年で新大綱をまとめるという。現在までに
3回の会合が行われている。現在は核燃料サイクル政策や、高レベル廃棄物処分といった
各論に入る前の総論として「エネルギー利用における原子力の位置づけ」が議論されてい
る。
この策定会議の任務として、近藤委員長は第一回会合で次のように述べている。「原子
力委員会の任務としては、念のため繰り返しますけれども、原子力基本法は、原子力研究
開発利用を推進することによって将来のエネルギー資源を確保し、学術の振興と産業の振
興を図って、人類社会の福祉の向上と国民生活の水準向上に貢献することを目指すとして
いるところ、このための方策をご審議いただくということと理解していますので、このコ
ンテキストで整理させていただくべきと思っております。そのことについては十分ご理解
をいただいていると思いますけれども、念のため申し上げます」
[第1回議事録 57 頁](こ
の趣旨は、昨年 11 月 30 日の原子力委員会決定※2書かれている)。

国と電力・原子力産業界の狙いが、議論の中ではっきりと見え始めている。推進側は、
あくまでも核燃料サイクルの堅持を基本方針とし、再処理路線と「夢」の高速増殖炉サイ
クルの推進を主張している。
しかしその一方で、六ヶ所再処理工場が進まないという現実があり、そのあおりを受け
て各地の原発使用済燃料プールの逼迫状況は差し迫ったものとなっている。そこで、国・
電力は、中間貯蔵を今回の大綱改定の大きな柱の一つと位置づけ、推し進めようとしてい
る。
もう一つの柱は原発輸出である。今後、国内の電力需要の増加が見込めず、国際的にも
日本の経済的地位の凋落が必至となる中、ベトナムやアジア等の新興国への原発輸出に活
路を見出すという方針を打ち出している。さらに緊急の重要な柱として、国内原発の稼働
率の大幅アップである。そのために定検短縮と長期連続運転、安全規制の「合理化」・簡
略化の推進を新大綱の中に盛り込むことを狙っている。この稼働率アップは、国内的な必
要性のみならず、原発輸出における他国との競争に打ち勝つためにも必要と位置づけてい
る。
以下、新大綱策定会議の議論の中での発言を引用する形で、主だった特徴を簡単に紹介
する。

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1.再処理路線の行き詰まりの下、大綱改定の柱の一つとして前面に出た中間貯蔵
1.再処理路線の行き詰まりの下、大綱改定の柱の一つとして前面に出た中間貯蔵

国内の原発から生み出される使用済燃料をどうするのかが、国・電力にとって喫緊の課
題となっている。使用済燃料を再処理するはずだった六ヶ所再処理工場は、ガラス固化で
完全に行き詰まっている。2010 年頃から検討を始めるはずだった第二再処理工場も、六ヶ
所再処理工場と「もんじゅ」の破綻によって検討開始のめどすら立っていない。再処理路
線は大きく行き詰っている。
すでに、六ヶ所再処理工場のプールはほぼ満杯だ。その影響を受け、各地の原発には搬
出先を失った使用済燃料がたまり、プールは満杯に近づきつつある。例えば東電の場合、
福島第1、第2原発のプールの余裕は残りわずか2~3年。関電の原発は後5~6年であ
る。プールが一杯になれば原発は運転停止に追い込まれる。再処理路線を口実に核のゴミ
問題を先送りにしてきた矛盾が顕在化し、噴出し始めたのである。
このような電力側の事情によって、中間貯蔵が大綱改定の眼目の一つとして焦点化して
いる。委員達は異口同音に中間貯蔵の必要性を訴えている。「確実に中間貯蔵施設を設置
していくことが大変重要(清水委員・電事連会長/東電社長)」。「中間貯蔵能力の増強
についての議論をする必要がある(大庭委員・原子力委員)」等々。中でも、第1回会合
での山地委員(地球環境産業技術研究機構)の次の発言は電力側の本音をストレートに代弁
している。「私が今回一番大事だと思っているのは、使用済燃料貯蔵容量の確保の政策で
す。・・・現在の我が国の使用済燃料発生量は、六ヶ所の再処理工場が動いたとしても、
その処理容量より発生量のほうが多いんだから貯蔵は必要だということがあるんですけれ
ども、六ヶ所自体の稼働に関しても不確実性があるということは、我々が今回認識したと
ころです。使用済燃料貯蔵というのは、原子力の安定的な運転にとって非常に重要です。
したがって、電気事業者が安心して貯蔵容量を確保できるように政策として位置づけてほ
しい。その中では、中間貯蔵だけじゃなくて、原子力発電所のサイト内での貯蔵容量の拡
張というのも、十分に現実的な技術オプションですから、それも含めてお願いしたい」[第
一回議事録 52 頁]。これは、何が何でも中間貯蔵が必要だという主張である。
大綱改定の議論と軌を一にして、中間貯蔵建設に向けた動きが始まっている。最も逼迫
している福島Ⅰ、Ⅱを抱える東電が先行し、青森県むつ市の中間貯蔵施設建設を始めた。
昨年8月に着工し、2012 年夏に操業開始予定だ。関電は表向き、地元からの立地調査の要
請を受けたという形をとりながら、和歌山県御坊市での中間貯蔵施設建設の意図を見せて
いる。九電も早晩、立地点探しを始めるだろう。中間貯蔵という核のゴミ捨て場を許せば、
子々孫々にさらなるツケを押し付けることになる。中間貯蔵施設建設反対の闘いが重要に
なってくる。

2.アジア等の新興国への原発輸出を国家戦略と位置づけ

2005 年に定められた現行の政策大綱では、原発輸出について、国内の原発が運転開始以
降 60 年を超え始める 2030 年頃からのリプレース需要発生までのつなぎとして位置づけて
いた。しかし、今回の改定で、原発輸出の位置づけは大きく変えられようとしている。新
興国の著しい成長、特に中国、インドの台頭。その一方で、見え始めた日本経済のトップ

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グループからの脱落。さらに、米国が原子力ルネサンスと浮かれていたのも5年前の話で
ある。しかしいまや米国では、経済性問題で原発新規立地は挫折し、行き詰まりの側面が
前に出ている。また、欧州の脱原発路線からの回帰傾向についても、ドイツでの 10 万人の
大デモに見られるように、高揚する運動が立ちはだかっている。
こういった国際環境の変化と国内需要の低迷を踏まえ、新興国への原発輸出を原子力産
業の生き残り戦略の主軸と位置づけ、国家戦略としてより積極的に追求していくという方
針が明確に打ち出されている。このことは、第1回会合の冒頭、近藤委員長の開催のあい
さつに端的に現れている。いわく、「我が国が原子力の研究開発利用によって、将来のエ
ネルギー資源を確保し、人類社会の福祉の向上に貢献するという原子力基本法の目的を達
成するにはGNPの大きさが重要になるところ、2030 年ぐらいには我が国のそれは、中国、
米国、インド、ブラジルに次ぐ5位に位置するとはいいましても、中国以外のアジア諸国
全体と合わせましても中国に及ばないという状況が展望されていることについて、どうす
るべきか考えるべき時期が近付いていると認識すべきと思いました。具体的には、そうい
う状況に向かいつつある中で、この原子力基本法の目的を達成していくためには、どこか
の時点で国際社会との連携強化に本腰を入れる必要がある、そういうパラダイムシフトを
決断をする必要がある」[第一回議事録2頁]。その後の議論において、各委員は近藤委
員長の「パラダイムシフト」という言葉を繰り返し引用し、「構造的に大きく変動しつつ
ある現下の国際情勢を踏まえた検討を(鈴木(篤)委員・原子力機構)」等、アジア等の新
興国をターゲットにした原発輸出の必要性を論じている。また、第2回会合(1月 14 日)
では、「国力としての原子力」がキャッチフレーズとされ、「世界に対してこういう技術
が日本にあるということを示していく一つのアリーナとして原子力というものがある(田
中(明)委員・東大)」等、さかんに語られている。原子力で国際的なリーダーシップを確
保しようという主旨だ。しかし、インドとの原子力協定の難航など、思惑どおりには進ま
ない。

3.老朽炉にムチ打つ危険な稼働率の大幅アップ

今回の大綱改定のもう一つの柱は、定検短縮と長期連続運転の実施、出力の増大、さら
には安全規制の簡略化を盛り込み、稼働率の大幅アップを図ることである。低迷する稼働
率は、国際競争力の点からも大きなマイナス要因となっており推進側の危機感は深い。改
定議論に向け、日本原子力産業協会が理事長名で公表した「新原子力政策大綱の策定に関
する議論の開始にあたって(1月 26 日)」※3にそのことがよく現れている。同文書は「我
が国の原子力発電所の平均稼働率が世界標準と比較して 20~30 ポイントも低いという状
況が続いている。・・・稼働率の低迷は、同じく海外展開を目指す競争相手国からの格好
の攻撃材料となっており、輸出競争力に悪影響を与えている。・・・世界各国で出来てい
ることが日本で実現していないということは、我が国特有の事情があると考えざるを得な
い」としている。
第一回会合でも、「世界最高水準の設備利用率を実現することで原子力産業の国際展開
での我が国のプレゼンスを高めることができる(五十嵐委員・日本電機工業会/東芝)」
という発言に続いて、各委員から「世界水準」の「合理的な安全規制」を求める声が相次

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いだ。
第2回会合では、事務方から「運転期間が日本が 13 カ月で米国が 19 カ月、・・・定検
の期間が 140 日と 38 日で、稼働率が 70%と 90%というような状況」との現状説明があり、
その後、障害は何かを巡って議論となった。又吉委員(モルガン・スタンレー)は、「柏
崎刈羽6号機では・・・運転再開許可がおりながらも、・・・自治体了解及び営業運転移
行了解までに 106 日を要して」いるとし、「資本市場の観点から・・機会損失の拡大」で
あると発言。稼働率の低下は運転再開を認めない立地県の責任だとの論旨である。これを
受け、増田委員(野村総研)は、再起動の手続きに「自治体間でそこにずれがあるのであ
れば、それは自治体の問題」と言い、「安全性ということはこれは事業者と国の責任で、
自治体が安全性について責任をとるわけでは」ないとし、自治体との「安全協定の意味も
よく整理」すべきだとまで述べている。総じて議論は自治体を主敵とする議論へ集中して
いる。さらには、これまで数々のデータ捏造や隠蔽などを棚に上げ、「過剰な安全」を求
める社会や自治体に責任転嫁するような議論も繰り返し行われている。「過剰な安全上の
不安(山名委員・京大)」、「点検のやり過ぎ(尾本委員・原子力委員)」「安全性をも
っと高めろとか、何かどこかで使いもしないようなバルブの検査漏れだとか、通報の 15
分、30 分のおくれが社会問題なんかになる(大橋委員・東大)」等々。稼働率の低下は、
老朽化が進む中、トラブル、事故による運転停止が頻発しているからだ。これまでの手抜
き検査のツケが様々なトラブルとして顕在化しているのである。老朽炉にムチ打つ経済性
優先の稼働率アップの先に待ち構えているのは、大事故の危険性である。絶対に許しては
ならない。

1月 31 日の第3回会合では、原子力の目標設定が中心議題となり、昨年6月閣議決定の
エネルギー基本計画の路線に多くの委員が賛同した。現大綱が、原子力を「2030 年以降も
総発電量の 30~40%程度かそれ以上」としていることに対して、同基本計画は、2030 年ま
でに原子力の比率を5割超と試算し、少なくとも 14 基の新増設、90%稼働率の実現を目標
として掲げている。原子力委員会事務局が出した案では、「現大綱の数値目標的なものを、
性能目標を示す方向に変える」として、「5割を超える場合もあり得る」との表現で、原
発輸出のために国内での原発発電量比率の確保という性格が色濃くなっている。電事連会
長は「目標値ありきではなく」と発言している。(第3回会合の議事録はまだ公表されて
いない)
2月 21 日の次回会合で「原子力の位置づけ」に関する中間とりまとめを行い、その後、
核燃料サイクルの議論に移る。今後も、改定議論の進捗に即して、その中身を適宜紹介し
ていきたい。

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◎関連資料

第1回会合 2010 年 12 月 21 日
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei1/index.htm

第2回会合 2011 年1月 14 日


http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei2/index.htm

第3回会合 2011 年1月31日


http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei3/index.htm

※1:原子力政策大綱の策定について(2010 年 11 月 30 日原子力委員会決定)の3頁-
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei1/siryo1.pdf

※2:原子力政策大綱の策定について(2010 年 11 月 30 日原子力委員会決定)の1頁-
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei1/siryo1.pdf

※3:「新原子力政策大綱の策定に関する議論の開始にあたって(日本原子力産業協会・
2011 年 1 月 26 日 ) 」 - http://www.jaif.or.jp/ja/news/2011/hattori_aec-ta
iko110126.pdf

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